品格なくして地域なし
『品格なくして地域なし』
奥本大三郎・他 著
晶文社
専門分野はまったく異なるが、教養の高さと鋭さでは当代に抜きん出た五名の東京人が地域文化を探して二十七ヵ所を歩き周ったレポート集。
一番印象に残ったのは奥本大三郎氏の「森なしには生きられない・愛媛県内子町・里山の復活」だった。ファーブル昆虫記の翻訳などで知られる奥本氏は以外と虫の少ない原生林や「材木の畑」となった杉林よりも雑木林にその視線を注ぐ。かつて稲作にはその耕作地の数倍の広さの雑木林や牧草地が必要であった。 そこは昆虫達の楽園であり、人間と「自然との無理しない共棲」が成り立つ社会でもあった。
雑木林はニ、三十年のサイクルで切られ薪炭になるが、自生力が強いので自然に再生しもとの林に戻る。人間が手を入れることによって里山の風景は維持されて来た。ここには単に自然の保護だけを訴えるのとは異なる視点がある。
戦後の国の木材政策で日本中に杉や檜などの木材として取扱いやすい木が植えられた。その結果がどこの山も杉林で変わらない風景になった。 日本の原風景の山は原生林でもなければ杉林でもなく、人間の手の入った里山だと納得した。